柱にしがみつき、なんとか床に手を付かずに済んだことにほっと息を吐いたその時、横から伸びてきた大きな手に口を塞がれた。
慌てて振り払おうとすれば、手も掴み取られてしまう。
「ほんとに、往生際が悪いわね」
目の前に進み出てきた美紀が、私を嘲笑う。くぐもった音にしかならなくても、私は必死に声を上げる。
「黙れ」
掴まれた腕を捻り上げられ、助けを求める声が悲鳴に代わる。
痛みと恐怖で崩れ落ちそうになりながらも、気力を振り絞って状況を把握しようと試みる。
目の前には美紀とスーツを着た男性。そして私の口を塞いでいるのは斉木さんで、腕を押さえつけているはもう一人の男性だ。
遼が目の前を通りすぎて行く。彼は険しい表情で真っ直ぐ前だけを見つめていて、男性のかげになっている私には気付かない。
待って。行かないで。お願い遼、私に気が付いて!
心の中で強く願った瞬間、遼の足がぴたりと止まった。
「……麻莉はどこですか」
怒りに満ちた声で、遼が自分の目の前に立つ人物へと話しかけた。
「麻莉はここにいない」
はっきりと、父が遼にそう答えた。



