「まったくなんでこんなことに。倉渕の坊ちゃんは今日の日をとても楽しみにされていたというのに……坊ちゃんとはもうお会いに?」
「いえ。でも、彼もそろそろホテルに着くと思います」
言いながら、緩みそうになっていた気持ちを引き締める。美紀たちから逃げられたらそれで終わりというわけではない。まだ父がいる。
「父を怒らせてしまって……誤解させたまま遼に会わせるわけにはいかない」
ふたりが顔を合わせる前に、どちらかと会って話をしたい。
「旦那様は一階に?」
喜多さんに頷き返すとともに、エレベーターが一階に到着する。
急ぎ足でエレベーターを降り、周囲を見回しながら私は焦りを覚えた。
十軒以上のレストランがホテル内で店を構えているからだろうか、思っていた以上に人が多すぎる。
そして広さもある。このどこかにいるはずの父と母を、なかなか見つけることができない。
ハッとし、慌ててバッグからスマホを取り出した。
エレベーターに乗り込んだ段階で遼に電話することが出来たというのに、この存在が頭の中からすっかり抜け落ちてしまっていた。悔しくてたまらない。
「遼に電話します」



