遼が私の恋人のふりをしていたことを、美紀が父たちに話をしたかどうかは、さっきの電話だけでは判断がつかなかった。


「麻莉。不安になるな、大丈夫だから」

「……遼」


不思議だった。

あんなに不安だったというのに、彼の落ち着いた声に、徐々に私も落ち着きを取り戻していく。力強く輝く瞳を見つめ返しているだけで不安が和らいでいく。


「俺はこれをいい機会だと考えてる」

「いい機会?」

「麻莉をくださいと言うつもりだ」


思わず両手で口元を覆ってしまう。呼吸を止めたまま、遼と見つめ合う。


「誰に何を吹き込まれていようが関係ない。俺の気持ちは一つだけだ。どんなに邪魔されようと、俺は麻莉と結婚する」


ワイングラスを再び手に取り、遼は私にかかげてみせた。


「余計なことなんて考えなくていい。麻莉は俺に奪われる心構えだけしてろ」


にやりと笑ってからワインを口に含む彼を、頬を熱くさせながら見つめてしまう。

どんな状況でも、彼は自信たっぷりに笑うだろうし、私もその微笑みに背中を押され前を向いて歩いていくのだろう。

遼と結婚したい。

何があっても、私を必要としてくれる彼の傍にいようと、強く心に思った。