「やめて! そのキスに何の意味があるって言うのよ……恋人でも、思い合ってもいないくせに!」


怒りに任せて乱暴に投げつけてきた美紀の言葉が、ほんの一瞬、遼の動きを止める。

視線を上げ、美紀を鋭く睨みつけた。


「キスの意味? 見てもわからないなら、特別に教えてやる。俺は麻莉が可愛くてしかたがない。差し出したこの手を彼女が掴んだその瞬間から、手放す気など全くない。誰にも渡さないし、逃がしもしない。これからも変わらず、麻莉は俺の女だ」


息をするのを忘れてしまった。

恋人のふりをし続ける必要はもう無いのだから、今のは偽りではなくすべて本当の気持ち。

そう思っていいはずなのに、驚きと戸惑いが邪魔をして、嬉しさを素直に受け止められずにいる。

強い意志を持って告げられた言葉に、美紀が表情をこわばらせた。

信じたくない。聞き間違いであってほしい。そんな顔で私たちを見ている。


「分かったか?」


続けて、彼の手が私の頭に乗せられる。

先ほどとは違う優しく言いきかせるような言葉は、私へのものだ。

ちょっぴり呆れたような笑みを浮かべて、遼が私を見降ろしている。

その微笑みを見て、やっと実感が湧いた。

喜びが体の中で一気に広がり、私も笑顔になる。