彼のことだから、今日みたいな日は実家には帰らず、そちらに仕事を持って帰ることだろう。

もちろん仕事をするだけでなく、ひとりの時間をのんびり過ごしたりもする大事な場所を、美紀には教えたくない。


「……えっ。そうなんだ」


さすがに家族が揃っているだろう倉渕家に押しかけることは無理だと考えたようだ。

美紀は残念さを顔に滲ませながらずずっとストローでアイスコーヒーを飲み、そして私をちらりと見た。

義理の母そっくりの冷めた目を向けられ、思わず身構えてしまう。


「あの遼先輩が選んだのがお姉ちゃんとか、今でも信じられないんだけど。だって学校一の美人に告白されても彼はなびかなかったんだよ。すごく理想が高いんだと思ってたの。だから私……」


苛立ちを隠しきれなくなってきている目元から、どれだけ美紀が納得できずにいるかが伝わってくる。

遼のすごさは分かっているし、自分自身が彼と釣り合っていないのも分かってはいるけれど、それを人に言われるのは面白くない。


「いつから付き合ってたの? 家を出たあと? きっかけは何?」


鋭く問われ、ギクリとする。


「どうやって付き合うことになったの? やっぱりしつこく何回も何回も告白したの?」