知らなかったら、美紀の押しに負けて遼に電話をしてしまっていたかもしれない。

逆に知っているからこそ、こうして私は頑なに拒み続けることができているのだろう。

遼先輩、遼先輩と連呼する美紀には警戒心しか生まれない。


「ずるいよ! お姉ちゃんばっかり! 私も遼先輩とお話ししたい!」

「ずるいって言われても」


口を尖らせながら、美紀は残り少なくなったアイスコーヒーをストローでグルグルとかき交ぜている。


「遼先輩……良いなぁ」


そして心のうちにある思いが無意識に出てしまったかのような独り言を聞かされ、私はまた憂鬱さを募らせていく。

遼に会って話をして、仲良くなりたい。それが美紀の本音なのかもしれない。


「そうだ! 疲れてるし来てもらうのが悪いっていうなら、こっちが遼先輩のところに行けばいいんじゃない?」

「……行くって、倉渕物産に?」

「バカじゃないの!? そんな非常識なことするわけないでしょ。遼先輩の家に行くの!どこに住んでるか知ってるんでしょ? 教えて!」

「本気? だとしたら倉渕家に押しかけることになるけど」


遼は仕事が立て込んでいるときに利用する場所として、倉渕物産のすぐ近くの高層マンションに一部屋借りている。