「ありがとう。遼にはずっと、助けてもらってばかりだね。いつか必ず恩返しするね」

「恩返しか……いいね。麻莉は一生かけて俺に恩返しをし続けろ」

「一生?」

「あぁ、一生。忘れるなよ」


空いている手で彼が私の頭を撫で、指先で頬を優しくなぞっていった。

一生俺の傍にいろと、そんな風にも受け取れる彼の言葉と、指先のくすぐったさに、鼓動が高鳴っていく。

熱くなった頬を抑えていると、中條さんがふっと小さな笑い声を漏らした。


「良かったですね。地味にこそこそと恩を売り続けた甲斐がありました」

「お前は黙ってろ」

「はぁ。美味しかったです。ご馳走様でした……ところで、私もひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


遼の言葉をさらりと聞き流し、中條さんが私を見た。真っ直ぐに見つめられ、思わず呼吸を止める。


「今回の倉渕専務の出張。誰かに話しましたか?」

「遼の出張のことですか?……えっと、遼の妹の花澄さんとこの前一緒に食事をしたのでその話をちょっと……あと私の妹にも言いました。遼と三人で食事をしたいとしつこく電話をかけてきていたので、彼は出張で東京にいないから今は無理だよって、そう断ったので。それだけです」


記憶を辿りながら正直に打ち明けると、「そうですか」と中條さんが短く息を吐いた。