「…」


先生は何も言わず、押し黙ったままだ。

本当は今すぐ電話を切って、この沈黙から逃げ出したかった。


だけど、


『このままじゃ終われない。』


そう思った私は、この揺るがない気持ちをもう一度繰り返した。



「相葉先生が好きなんです。」



ハッキリとした言葉で伝える私に、先生は小声で


「うん…。」


そう返事をしたっきり、また黙り込んでしまった。



「…先生…?」


少しの沈黙の後、恐る恐る私が呼びかけると、


「…ありがとう。生徒にそう言ってもらえると嬉しいよ。」


これが相葉先生の返事だった。



“生徒にそう言ってもらえると”



この言葉が私の胸に突き刺さる。


私は“生徒”として言ってる訳じゃない。

ましてや、相葉先生が“先生”だから言ってる訳でもない。


そう思った途端、顔が紅潮して頭に血が上っていくのを感じた。


「先生分かってる?私が本気で言ってるの、分かる?」


思わず声が大きくなった私は全然冷静じゃなくて、

受話器を握る手が、震えた。


相葉先生は少しの間の後、

「そう言われても生徒はみんな同じだからなぁ…。」

困ったように少しだけ笑いながら、そう答えた。


きっと、相葉先生は冷静に言葉を選んでいたのだろう。


うまくはぐらかそうとしている事位、私にだって伝わったけど、


それでも、引き下がれないよ―…



「私、先生の特別になりたい。」



それは私にとって必死の願い。

いつもそう思いながら過ごしてきた。

“相葉先生への強い想い”

そのものだったのだから。



「…俺にとって、生徒はみんな同じだよ。」

「私もみんなと一緒…?」


心の中で“絶対にくじけない”と、強く頑丈に積み上げていたはずの壁が、ガラガラと崩れていくのを感じた。