「う…うそぉ…。」


曲がった途端、私は片手で口元を押さえると、少しだけ冷たくなった手から、顔が紅潮している事を感じた。


『先生に会っちゃったよ!先生に会っちゃったよー!!』


自分でも驚くほど早く、強く響いている胸のドキドキが止まらなくて、


“こんな所をウロウロしていて、変に思われたかもしれない”

“友達の家に遊びに行くって言ったけど、信じてくれたのかな”


先生の家から離れる程、そんな不安も押し寄せてきた。



相葉先生の家まで行って、


『会いませんように。』


そう思う事自体がおかしいのは分かっている。


『もしかしたら、会ってしまうかもしれない。』


そういう覚悟も少し位は出来ていたはずなのに、実際にバッタリ会ってしまうと、どうしてこんなに気まずい気持ちになるんだろう。


何だか、悪い事をしたような気持ちだった。

でも、


「私服の先生見ちゃった…。」


恥ずかしさや気まずさとは裏腹に、知らない相葉先生を垣間見た喜びを感じていた。


だけどこうして相葉先生が住むアパートが分かった事によって、私が予想もしていなかった出来事が起こるなんて、

この時の私は、少しも想像していなかったんだ。