海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

「離婚もして色んな人を傷つけた俺が、幸せになる権利も、河原に想いを伝える資格も無いだろうって思ってた。だけどこの前、河原が生徒に言ってただろう?」


「え…?」

首を傾げた私に、相葉先生は言った。


「“簡単に諦めたらいけない”って言ってただろう?あれからずっと考えてたんだ。」

「あ…。」


それは言った本人である私でさえ、後から考えてしまった言葉だった。


その一言が相葉先生の心に留まるだなんて、思ってもいなかったのだ。


今起きている事が現実なのか、夢なのか。


まるでそれを確かめるかのように相葉先生を見つめていた私に、先生は言った。



「考えた上で、もうこれ以上、大切に想う人を諦めたり、失ったりしたくないって思ったんだ。」


「…先生…っ」



“大切に想う人”


自分が相葉先生にそう想われる存在だった事が信じられない位嬉しくて、とうとう顔を覆って泣き出した私に、


「もしも許されるなら、自分の気持ちを伝えたいって思ったんだ。後悔したくないっていう一心だった…。」


相葉先生はそう言い終えると、すぐに申し訳無さそうな表情で続けた。


「ごめん、今更聞きたくもない話だよな。こんな都合の良い事、言う側は満足しても、聞かされる河原は気を悪くするだけなのに…本当にごめん。」


そう言って、“済まない”と謝り始めた相葉先生は、


「何言ってるの…!?」

そう呟いた私が、顔を覆って泣きながら怒っているのだと思ったらしく、ひたすら謝り続けた。


「ごめん、今言わなかったら一生後悔するような気がしたんだ。俺の身勝手でこんな話をして河原が怒るのは当然だし、本当に迷惑だよな。全部忘れてくれていい…」


「嬉しいに決まってるでしょう?」


相葉先生の話を遮って、私は泣きながら目の前に立つ先生にしがみついた。



「え…っ?うわっ。」


私がしがみついた反動で後ろに下がった相葉先生が、

壁に軽く背中をつけたと同時に、傍にあったスチール製の棚がカシャンと物音を立てていた。