海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

そして最後に、私は相葉先生の机に視線を移した。


そこには、いつも相葉先生がいたのだ。


高校生の頃からこの日起きた事までの、全ての記憶が思い起こされるようだった。


ずっと堪えてた涙が私の頬を伝った時、準備室のドアが開いたので、すぐに涙を拭って振り返ると、開いたドアの向こうに相葉先生が立っていた。


「忘れ物?」


そう、私に問い掛けながら相葉先生が入ってきたので、私は更に奥の方にある自分の席へと進み、


「あ…はい、もしかしたら何か置き忘れてるかもって思って…でも大丈夫でした。」


そう言って、いつものように笑った。



「そう。」

相葉先生は微笑みながら小さく頷くと、


「俺も忘れ物があって。」

そう言って、私の前に立った。


「正確には“忘れ物”って訳じゃないんだけど…。」

相葉先生はそう言いながら俯くと、一度落とした視線を私に戻した。


涼やかなメガネの奥の瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。


「河原に聞いてもらいたい事がある。」

「…はい…。」


相葉先生の真剣な様子につられて、私はヘラヘラと笑うのをやめた。



「俺がこんな事を言うと河原はすごく迷惑かもしれない。だから、聞かなかった事にしてくれても構わない。」


そんな前置きから話し始めた相葉先生の顔を、私は何も言えずに見つめていた。


「…それに、今更こんな事を言うと、お前は“ふざけんな”って怒るかもしれない。」


「…?」



『私が怒るような事って一体なんだろう。』


相葉先生の意図が分からないまま、ただ、ただ、その言葉の続きを待っていた。


相葉先生は一度視線を落としたけれど、すぐに戻して、


「俺は、もう一度河原に会えて良かったと思ってる。」


真っ直ぐに私を見つめて、相葉先生は言った。


私は驚きの余り、瞳を揺らして相葉先生を見つめていた。