海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

全ての授業が終わった放課後―…


「3ヶ月間、本当にお世話になりました。」


私は職員室で、先生方一人一人に挨拶をして回っていた。


「またこっちに戻ってきた時には遊びに来てね。」


そんな温かい言葉をかけてくれる先生もいて、私はその度に少しだけ目を潤ませた。


もちろん相葉先生にも、


「本当にお世話になりました。色々と勉強になりました。」


と、挨拶をした。



誰よりも一番お世話になったのは、他でもない相葉先生である事に間違いはなかったから、


『きちんとお礼をしたい』

そう、思っていた。


「こちらの方こそありがとう、とても助かったよ。」


そう言いながら差し出された相葉先生の手を、私は握り返すと


「ありがとうございました。」


涙を堪えて、精一杯の笑顔で答えた。


「またいつか…元気で。」

「はい、相葉先生も。」


私は目に浮かんだ涙が零れ落ちる前に、悲しげに微笑んでいた相葉先生の手を離した。


『また会える日なんて、もう二度と訪れないのかもしれない―…』


そう思っただけで、本当は朝から何度も泣きそうになっていたのだ。


だけど、最後は笑顔でお別れしたいと思っていたから、涙を見せる前に私は自分の席に戻り、荷物をまとめた。


帰る準備が全て整った時、どうしてももう一度パソコン教室の準備室に行きたくなった私は、そっと席を立つと教室の鍵を持って職員室を出た。


もう二度と入る事はない、一番思い出深い場所だから。

だから、最後にもう一度だけ行きたいと思ったんだ―…


今にも泣き出してしまいそうだったので、なるべく平静を保って足早にパソコン教室へと向かった。


鍵を開けてすぐに準備室に入ると、そんなに広くはないこの準備室を私はぐるりと見渡した。


この部屋の中も、ブラインド越しに見える景色や差し込む光も、その全てをこの目に焼き付けておきたかった。