海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

“よい関係のまま、この期間を終了する”


そう決めてから過ごし始めた日々は、本当に一日一日がとっても大切で、

一分一秒たりとも無駄にしたくないと思っていた。


残りの時間が僅かになってから、急激に相葉先生に接近した訳ではないけれど、


限られた機会の中で起こる出来事は、どんなささいな事でも嬉しくて、楽しくて、たまらなかった。



相葉先生の笑顔が沢山見られた事も、


私が生徒だった頃には話せなかったような事を、今の関係だからこそ話せるようになった事も、


立場は違えど、同じ仕事をする同士になれた事も―…



その一つ一つが幸せで、もう十分だと思えていた。



『もう一度相葉先生に会えて、本当に良かった』


心からそう、思っていた。



そして出向最終日の前日の晩、私の携帯が鳴った。

相手は椎名先生だった。


「河原?とうとう明日が最終日ね。3ヶ月間、本当にご苦労様でした。最後の一日、宜しく頼むわよ。」


今回の仕事が終了する前に、わざわざ労いの電話をくれた椎名先生に、


「分かりました、頑張ります。椎名先生、今回の仕事を私に任せて下さって、本当にありがとうございました。」


電話で申し訳ないと思いつつ、私は椎名先生にお礼を言った。


お礼を言わずにいられなかったのは、この仕事を任せてもらえなければ、きっと、相葉先生に再会する事は無かったからだ。


こうして再会出来なければ、


悲しい記憶と決別する事も、

一緒に仕事をする事も、

笑い合って話す事もなかった。

楽しい思い出を作る事だって出来なかったんだ。


そう思えば思う程、感謝せずにはいられなかった。



「こちらの方こそどうもありがとう。」

事情を知らない椎名先生から逆にお礼を言われて、この時の電話は終わった。



翌日には最後の日を迎える。


『辛い事ばかりだった相葉先生への恋を、きっと、幸せな恋の思い出に変えられる』


私の心はそんな気持ちでいっぱいだった。