海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

「何年前の話だよ。」

そう言って、相葉先生は照れ笑いをした後、


「もうすぐ河原との仕事も終わるんだよなぁ…。」

と、私から視線を逸らした。



「そうですね、あっという間でした。」

私は返事をしながら、胸元で抱えるように持っていたテキストをぎゅっと押さえた。



『本当にもうすぐ終わってしまうんだ』


そう思うととても寂しくて。

だけど私と同じように、残りの期間が短くなっている事を、相葉先生も気にかけてくれた事を幸せだと思っていた。



「色々と助けてくれてありがとうな。残りの期間も頼むな。」

そう言って、相葉先生は私の肩をポンッと叩くと、


「さて、俺達もそろそろ帰ろう。」

ニッコリと笑顔を浮かべて、出口に向かって歩き出した。


「はい。」

私も後に続いて歩き出した時、心の中で思っていた。



『相葉先生が私の事を記憶に残してくれていたのだから、これ以上は望まなくてもいいんじゃないか。』


『このまま良い関係で終わらせるのが、お互いにとって一番いいのかもしれない。』


そう、思ったんだ。


だから―…


今の想いを伝えたりせず、ただ一生懸命にこの限られた時間を、

相葉先生との楽しい思い出が一つでも多く作れるように過ごそうと決めたんだ。


“諦める”とか“逃げる”じゃなく、

あくまでも前向きな気持ちで、

そう、心に決めた。