海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

『落ち着け、私…!』

そんな自分を見られるのが嫌で、私は必死に心の中で自分自身をなだめた。



「はい。」


相葉先生が取ってくれたその本を手渡された時、私は赤らめた顔を出来るだけ見られないように俯きながら、


「ありがとうございます。」


そう、お礼を言って受け取った。



動揺している時って、どうして変な事を口走ったりするのだろうか。

私はそれまでずっと胸に仕舞っていた“ある事”を口に出していた。



「相葉先生って結婚指輪をしないんですね。」



最初に挨拶に伺った時から気付いてた。

先生の左手の薬指に指輪がないことを。


何となくだけど『意外だな』って思っていたのは、結婚したら相葉先生は指輪をしそうな人だと感じていたからだ。


“妻となる人を愛し、家庭を守る”


相葉先生の事をそんな風に思っていた。


だけど今まで聞かなかったのは、相葉先生の結婚生活の事なんて知りたくなかったから。


大崎先生との幸せな日々の話なんて、今でも聞きたくないって思ったから。


だから敢えて目を反らしていた。


だけど本当はずっと気になってたんだ―…



「あぁ…。」


相葉先生はちらっと自分の左手を見ると、そのまま


「俺、離婚したんだ。」


そう言って、口元だけで小さく笑った。


「えっ…!?」


予想外の返事に私は驚いて、相葉先生を見つめた。



「俺、離婚したんだよ3年前に。」


相葉先生はもう一度そう言うと、そのまま自分の席に座った。


私は驚きの余り、そのまま立ち尽くした状態で


「…どうして…?」


そう、呟いていた。


根掘り葉掘り聞こうとした訳じゃないけれど、

自然とそんな言葉が口から飛び出してしまったのは、

頭の中を軽く混乱させるような、ちょっとしたショックを受けたからだろう。



「…うん…。」


相葉先生は一言間を置くと、


「ちょうど離婚した頃な…。」


ゆっくりと、

私の質問に答えようとしていた―…