職員室に戻った私は荷物を手に取ると、

「お先に失礼します。また明日も宜しくお願いします。」

と、残っている他の先生方に挨拶をしてから校舎を出た。


夕方のオレンジ色の日差しは眩しかったけれど、そのほんわりとした暖かさはとても心地良く感じた。


テニスコートの方を見ると、予想通り相葉先生がいた。


生徒さん達と談笑している先生は、とても楽しんでいるように見えたし、

生徒さん達の表情から、今でも生徒に好かれる先生なんだって事が伝わっていた。


それが嬉しくて、私はその様子を眺めながら口元に小さく笑みを浮かべた。


私の視線に気付いたのか、ふいに相葉先生がこちらを見た。


離れていたので声をかけるのもどうかと思った私は、そのままペコリと頭を下げると、

相葉先生もその場で片手を上げて返してくれた。


その様子を見届けると、私はテニスコートとは反対側にある駐車場へと進み、車に乗り込んで学校を後にした。


この位の接し方が、今の自分には丁度いいと思っていた。


決め事が有る以上、これで十分なのだ。


ある程度の距離感を保って相葉先生と接する事は、この後も続いた。


話すとしたら1日に1、2回程度。


長く話し込むような事は滅多にないけれど、もし有るとしたら、準備室で会った時位かもしれない。


授業や生徒さんの話をする事も有れば、テレビの話題とか食べ物の話とか、他愛も無い話題になる事もある。


自分自身の気持ちを一定に保ちながら、仕事上のコミュニケーションもうまく取れていると思っていた。


そんなある日の事だった―…