その姿を見送りながら、素直に『嬉しい』と感じていた。


私にとって相葉先生の存在が、救いでもあり、不安要素でもあったからだろう。



『一人の男性として好きになるわけじゃない。自分の恩師として、一緒に働く者として慕うだけ…。』


心の中でそう思い返しながら、私は再び教科書に視線を戻した。


ややしばらく経ってから、この日の1時間目は私も相葉先生も授業が無い事に気付いた。


私は授業に入る前の確認も兼ねて、


「お時間が有れば打ち合わせ出来ませんか?」

と、相葉先生にお願いしてみると


「いいよ。」

相葉先生は快く承諾し、


「…パソコン教室にでも行くか?」

と、提案してくれた。



パソコン教室に入るのは8年ぶりの事だった。

何だか嬉しくて、



「はいっ。」

私は一つ返事で頷くと、先に歩き出した相葉先生の後ろに着いて歩いた。


数冊のテキストとノートを抱え、少しだけ小走りをして相葉先生の隣に並ぶと、

相葉先生は何も言わず、ただニッコリと微笑んで隣に並んだ私を見下ろした。


その笑顔に、私も自然と頬が緩んでいた。


相葉先生は私に歩調を合わせて、

「河原がパソコン教室に入るのも久しぶりだよなぁ。」

と、歩きながら話し始めた。


「8年ぶりです。まさか、自分があの教室で教える事になるなんて。」

そう言って、相葉先生の方を見上げると、


「だよなぁ。俺も河原が来るって聞いた時は本当に驚いたよ。」

と、相葉先生は何やら感慨深げな表情をした。


それから急に思い出したかのように、

「あっ、この鍵は職員室にかかっているから自由に使って。」

そう言って、パソコン教室のドアの鍵を私に見せた。


「分かりました。」

私は笑顔のままコクリと頷いた。