約3時間後、私を乗せたバスは大和が待つ街に到着した。


全く知らない新しい街。

私を知る人は、今のところ大和だけという環境だった。



ここで大和との生活が始まり、

新しい仕事をし、

新しい人間関係を築いていく。



『今から始まるんだ。』


私は決意にも似た想いを抱きながらバスを降りると、新しい街の空気を深く吸いこんだ。


バスから地下鉄へと乗り継ぎ、徒歩5分位で大和が住むマンションに到着した。


事前に大和から預かっていた合鍵を使って玄関のドアを開けると、寒かった外の空気とは一変して、暖かな空気が部屋いっぱいに広がっていた。



「俺は仕事だから、部屋で適当にしてて。」


前日の夜電話で大和が言っていた通り、彼は外出中で部屋はガランとしており、リビングには脱ぎ捨てた服があちこちに散らばっていた。



私は持っていたボストンバッグを床に降ろすと、散らばった服の一つ一つを拾い上げながら歩いて、それを抱えたままソファーに座った。


ちょっとした疲れを感じながらも、仕事から帰ってきた大和が喜んでくれるような何かをしたいという、ワクワク感で心の中は一杯だった。


一息ついてバッグから携帯電話を取り出すと、無事に到着した事を告げる為、私は実家に連絡を入れた。



プルルル…

プルルル…



「もしもし。」

「あ、お母さん?さくだけど。」

「ちゃんと着いたの?」


安心したような声の母に、


「うん、着いたよ。これから頑張るね。私の部屋が決まったら連絡するから。」


「元気で頑張るんだよ。何かあったらすぐに言ってね。」


「うん、分かった。」




母と話しながら、


『両親にどれ程心配を掛けているのだろう。』


と、自分の我が侭を貫いた事を申し訳なく思ったけれど、その申し訳無さ以上に感謝の気持ちが勝っていた。


それ位、新しい地で傍に大和がいる生活を求めていた―…