海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

「応募してみようと思う会社があるんだ。」


この日、ようやく大和が働きたいと思える会社がみつかった事で、彼のキラキラ笑顔を久しぶりに見る事が出来た。


希望に満ち溢れている笑顔に私も心を弾ませながら、どんな会社で、どんな仕事をするのかを聞かせてもらった。



彼が選んだ仕事は、大まかに言うと接客業。


自分の力をどんどん引き伸ばしていけそうな社風に惹かれた、と言っていた。



「大和がやってみたいと思うならいいんじゃない?頑張って!」


そう言って応援する私に、


「そう思ってくれる?ありがとう!」


彼は満面の笑顔を私に向けた後、会社概要が書かれた紙を見つめた。



「採用になるといいね。」


彼が望む仕事をして欲しいと思う。


心からそう思ってる。


思っているのだけれど―…




もし彼がその会社に就職したら、今、私達が住んでいる街から車で片道3時間程かかる場所に引っ越してしまう。


遠距離恋愛になる事が、現時点で分かっていた。


車で片道3時間という距離は、“遠距離”っていう程遠いわけではないのだけれど、

なかなか会えなくなるという事だけは確かだった。




『大和は離れ離れになっても平気なのかな…。』



その事を聞けないまま2週間ほど経った頃、大和はその会社の就職試験を受けに行った。


筆記と面接で2日間使うらしく、出発してから3日目に戻ってくる事になっている。


戻ってくる日、大和の家に行こうかと考えたけれど、疲れているだろうと思って結局私は行かなかった。




『無事に戻ってこれたかな…。』


そんな風に大和からの連絡を待っていると、携帯が鳴った。


ディスプレイに表示されている名前は“大和”。


私は急いで電話に出た。



「もしもし。」

「もしもし、さく?」


聞こえてきたのは予想通りの疲れた声。

体力も使っただろうし、気疲れはその倍以上あっただろう。