海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

ピクン…ッ



右手に何かが触れた。


温かいその何かは、ギュッと私の手を握り締めて、



「手、繋いでもいい…?」


大和君の擦れたような声が聞こえた。


チラリと大和君を見てみると、相変わらず横たわって私から顔を背けたまま夜空を眺めている。



「うん…。」


返事と一緒に私も助手席側の窓から見える夜空に視線を戻し、キュッと手を握り返した。



言葉なんかなくても良かった。


手の温もりが、全てを伝えてくれているような気がした。


誰かに想われる幸せを感じた。


想ってもらえるという事は、こんなにも幸せで温かいっていうこと。


初めてちゃんと知る事が出来た気がする。


相葉先生の時には、感じる事が出来なかった気持ち。


幸せが心に広がって、泣きそうだった―…




「…もう、いい加減帰らなきゃまずいよね。」


大和君がそう言った時、時刻は3時近くになっていた。



『もう本当に帰って眠らなければまずい。』



現実に引き戻される時は、心の底から残念に感じる。


「うん、もう帰らなきゃ明日キツイかも…。」


そっとシートを少し起こしながらそう言うと、



「じゃあさ、最後にお願いがあるんだけど…。」

「…なに?」


大和君の申し出に、シートを起こしていた手を止めて右隣にいる彼を見つめた。