海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

≪隆二さん、ジンくんに追いつけなくてすみませーん!≫


スピーカーのおかげで私達にまでしっかり聞こえてきた柴田君の声は私の心を弾ませ、


『もっと喋ってくれたらいいのに。』


そう、思わずにはいられなかった。



「全然いいよ、柴田。アイツ速過ぎだもん。」


隆二さんが返事をすると、そのまま続けて


「少し行った所にあるコンビニで、何か飲む物買おうぜ!」


と、他の2台の車に呼びかけた。



≪了解でーす。≫


他2台からの返事が来ると、車は更に加速して走り続けた。


街灯の灯りと前の車のテールランプ、対向車のライト…

沢山の灯りがすごいスピードで通り過ぎていった。


どうやら車が大好きなこの男の子達は、俗にいう“走り屋”っていう人達らしい。


今日は合コンになるのかと思っていたけれど、彼らにとっては


“とりあえず、女の子を乗せて走りたかった”


…っていうのが本音のような気がした。


瑞穂に誘われなければ、こんなスピードで走る車に乗る機会はなかったかもしれない。


とにかく、初めての経験だった。




走りながら隆二さんが、


「もし、車に乗せて欲しい奴がいたら言ってね!」


と、後ろにいる私と瑞穂に向かって声をかけた。



「はーい。私は隆二さんの車がいいでーす!」


とても元気に即答した瑞穂は、


「さくは?」


と、ニコニコしながら私に聞いてきた。


「うーん…。」



“柴田君の車に乗りたい”


その一言を言おうか、言うまいか一瞬悩んだ私は、




「柴田君の車に乗りたいかな…。」


と、小声で呟いた。