「ごめん瑞穂。私ね、青山先生の事を好きになれなかったの…。」


「え…?」


瑞穂が私の事をじっと見つめた。


私は協力し続けてくれた瑞穂に申し訳なさを感じながら、話を続けた。



「“先生”って呼べる青山先生に、相葉先生の姿を重ねてたのかもしれない。何かある度に“相葉先生なら…”って心の中で思ってた。青山先生は、青山先生なのにね。」


そう言うと、私はあまりに申し訳無く思っていたせいか、溜め息混じりに小さな笑いがこみあげた。


可笑しかった訳ではなく、そんな自分を情けなく感じてたからかもしれない。


「だから、もしも星野聡子さんが青山先生の彼女だとしても、それはそれで良かったって思えるの。瑞穂はずっと協力してくれていたのに、本当にごめんね…。」


「ううん。」


そう言って、瑞穂は首を横に振った。




「最初は本当に好きになれると思ったの。だけど、うまくいかなかった…。」


俯いた私の脳裏に思い浮かんだのは、優しい相葉先生の笑顔だった。



『河原。』


私の名を呼ぶ相葉先生の声だって、まだちゃんと覚えている。


こんなにもハッキリと聴こえてくる―…



私の目にはどんどん涙がこみ上げて、視界がぼんやりと歪んだ。



「相葉先生の事、忘れたいのに忘れていないみたい。本当にごめん…。」


そう言って顔を上げた時、ポロッと一粒の涙が零れ落ちた。


「無理する事ないと思うよ?」


瑞穂はそう言いながら、ダッシュボードにあったティッシュを2、3枚取って、私に渡した。


「焦る必要はないと思う。無理に忘れる事もないと思うよ…?」


「だけど、このままじゃずっと前に進めないから、やっぱり私は変わらなくちゃいけないと思うの。」


私は瑞穂から渡されたティッシュで涙を拭いながら、そう答えた。




青山先生の事は好きになれなかったけれど、


それでも、


相葉先生への想いにしがみついてちゃいけない、


自分の気持ちを変えなければならない、と思っていた。