海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

「さく、平気なの…?」


瑞穂が心配そうに私の顔を見つめている。



「うん、大丈夫だよ。」


私は運転しながらほんの少しだけ瑞穂の方を向き、軽く微笑んでみせた。



本当に平気だった。


もしも相葉先生を追いかけていた時に同じ事が起きていたら、きっと、ひどく取り乱していたんだろうけれど、今の私は本当に平気だった。


残念な位、平気だった。




『…入ろうか…。』


あの時の青山先生は、どんな気持ちで私を誘ったのだろう。


遊びだったのかもしれない。


からかわれたのかもしれない。


だけどもしかしたら、


私が無理やり青山先生を好きになろうとしていた事に、気付いていたのかもしれない。


私の心の中に、違う存在がある事に気付いていたのかもしれない―…



『そんなはず、ある訳がない。』


そう思った瞬間、私は軽く首を左右に振った。




もし青山先生にとって私は遊びだったとしても、


『青山先生を責める権利なんて無い。むしろ、おあいこ。』


そう思っていた方が、私の気持ちは楽になれた。


知らなかったとはいえ、彼女との仲を邪魔していた挙句、


偽りの気持ちで青山先生に接する事で、傷つけていたのかもしれないのだから―…




そんな事を考えながら車を走らせていた私は、少し先にあるスーパーを見つけた。


だだっ広いスーパーの駐車場は、車の中で落ち着いて話をするには最適と思えて、


「あの駐車場に車を停めていいかな。」


そう瑞穂に訊ねると、その提案に瑞穂が快く承諾してくれたので、私は駐車場に車を止めて瑞穂に話し始めた。