「…どうする?」
黙りこくった私に、青山先生が問い掛けた。
「ん…。」
隠し切れずに戸惑った表情を浮かべて青山先生を見ると、そのまま困ったような笑みを浮かべて、
「ん…。」とか、
「や…。」とか、
迷いと困惑ばかりが目立つ返事を繰り返しては、青山先生から目を逸らした。
いつまでも“うん”と言わない私を見兼ねたのだろう。
青山先生は、
「…やっぱりやめよう。嫌だよな、こんな汚そうなホテル。」
そう言って、作ったように「ハハッ」と笑うと、何分も停車させていた車をゆっくり発進させた。
「いや…そういう訳じゃないんだけど…。」
勝手に口を付いて出てしまったその言葉に、
「じゃあ、行くか?」
すぐに止まるんじゃないかって程に車を減速されたけれど、
「…」
私はやっぱり「うん」とは言えず、ますます返す言葉が見つからなくなっていた。
そんな私の様子を見た青山先生は、
「無理するな。やめよう。」
また作り笑顔にしか見えない表情で“うん、うん”と頷きながら、努めて明るく答えて車のスピードを上げた。
「…ごめんなさい…。」
青山先生が聞き取れるか、聞き取れないか、それ程に小さな声で私は謝った。
『きっと傷つけた。』
そう、思ったから。
私にそういう経験がなくても、そんな気持ち位は感じ取れたから。
『こうして謝るのは、更に傷つける事になるのかもしれない。』
そう思ったから、謝罪の言葉も自然と小さな声になっていた。
まだ心のどこかで、“青山先生を好きになれるかもしれない”と思っている自分が、
断った事を不安に感じていたからかもしれないけれど…。

