海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

私達は先客よりも先にその場を離れると、車は山道を下り、大きな通りに出た。


国道であるにも関わらず、殆ど建物もないような、街灯だけがひたすら続く道だったけれど、


ある所で信号を左折すると、突然道なりにホテルが立ち並んでいた。



『どうしてこんな場所に…。』


と、思うような辺鄙な場所なのだけれど、


後から考えてみれば、そういう場所だったからこそ、ホテルが建っていたのかもしれない。


何となく居心地の悪さを感じたまま、青山先生が運転する車はホテルの前を走り抜けていく。


なぜか私も青山先生も、ここに来る前より口数が減っていた。



3、4件目のホテルの前を通り過ぎた時、突然、青山先生が車の速度を落とした。


場所が場所なだけに、私は少しだけ驚いていた。



「あのさ…。」


それまで無言になっていた青山先生が、口を開いた。



「はい…?」


青山先生の方を見ると、先生はまっすぐ前を見たまま、



「…入ろうか…。」


そう、ポツリと呟いた。




「…あぁ…。」


私は相槌のようにも、溜め息のようにもとれる一言を言うと、黙りこくって俯いた。


真っ直ぐに青山先生が見られなくなる位、とても動揺していたから。



『どうしよう…。』


私の心臓は破裂しそうな程、ドキドキしていたけれど…


本当は、とても不安になっていた。


とても、とても、不安になっていた。




『相葉先生…』



この時私の心に浮かんだのは、やっぱり相葉先生だったから。


青山先生に誘われた事を喜んでいない自分が、明らかにそこにいた。


今すぐ逃げ出したくなっていた私には、この時の沈黙がとても、とても、長く感じた。