海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

注文したハンバーグも運ばれ、私達は食事をしながら、


いつもはどんな風に遊ぶのかとか、


カラオケではどんな歌を歌うのかとか、


好きな食べ物は何かとか、


どんな車が好きだとか…



他愛も無く、教習中には話した事がない話題で沢山お喋りをした。



私はこのお店に着いた時から、


男の人と、しかも、そんなに特別親しい訳ではない人との慣れない食事に若干緊張気味だった。


青山先生が私の担当になる事が増えたのは、自動車学校の講習が後半に入ってからの事。


通っている間で顔見知りになっていたけれど、すごく仲良くなった訳ではないし、


路上講習中は、お喋りばかりしている余裕が私には無かったから、長くお話をした事だってなかった。



それでも、この緊張が少しずつほぐれていったのは、青山先生が楽しそうに、よく笑う人だったからかもしれない。


青山先生は自分の事を、


“10コも年上のおじさん”


なんて言っていたけれど、実際、全くそんな感じはしなかったし、一緒にいて楽しくなれそうな気がした。



「ねぇ、先生は彼女いるの?」


瑞穂の質問に、先に食べ終わった青山先生が困ったような表情を浮かべて、


「いや…いないけど、どうして?」

と、答えた。


その言葉に、


「嘘だぁ!あんなに人気あるのに!?」


私と瑞穂は目を丸くし、声を揃えて怪しむ。



「そう言われてもなぁ…。」


青山先生はクスクス笑いながら私達に、


「タバコ吸ってもいい?」


と、問い掛けた。


私達が「どうぞ。」と頷くと、


青山先生はタバコに火をつけ、その時流れてきたタバコの香りで、


『パソコン教室の準備室で、タバコを吸う相葉先生を何度も見たっけ。』


と、私はまた相葉先生の事を思った。


私が準備室に行くのは放課後が多かったせいか、タバコの白い煙は所々夕日の色に変えながら、ゆらゆらと揺れて消えていった。


その記憶と一緒に、話している時の相葉先生の笑顔や、

何かを指し示す時の、男の人の割にはしなやかに伸びている指までもが思い出されていた。