相葉先生の唇に触れてすぐ、私は先生の手を離してドアの方へと向かった。


振り返ると、相葉先生は驚いたように私を見つめていて、


そんな相葉先生を、涙でクシャクシャになりながら私も見つめた。



「先生、さようなら…。」


そう一言言うと、相葉先生の驚きと困惑の眼差しを振り払うようにして準備室から出た。


相葉先生の言葉は何も聞こえず、ただ、バタンとドアが閉まる音だけが耳に残った。


半ば走るようにしてパソコン教室を出ると、同じ歩調でそのまま瑞穂と梢が待つホールまで歩いた。




さようなら、先生。



さようなら。



とっても、とっても、大好きでした。




大好きだったよ…。




大好きだよ―…




もう、今にもわぁっと泣き出してしまいそうな気持ちだった。


訳が分からなくなりながら、ただ無我夢中で廊下を歩いている内に、



「さく!」


心配そうに見つめている瑞穂と梢に声をかけられて、私は二人に駆け寄って抱きついた。


そして声を上げて泣いた。



「終わっちゃった…終わっちゃったよ…!」


二人は何も言わずに、ただ私の頭や背中を撫でながら、


「頑張ったね。」

そう言ってくれた。


その言葉でますます私の涙は止まらなくなり、強く強く二人にすがりついて、私はひたすら泣いた。


“こうして相葉先生の事で泣くのは、もうこれっきりにするんだ”と、心に決めて。


もうこれが本当に最後なんだって思いながら…。



「よし、よし…。」


二人が優しく私の体を撫でる。


私は泣きすぎて、目元に痛みを感じていた。


心の中も痛かった。


それほど、相葉先生の事が好きだったんだ。




河原さく、18歳。


私の卒業式は、


相葉先生を想い続けた日々からの卒業式。


生まれて初めて、本気の恋を知ったこの2年。


その想いを全て詰め込んだこの日は、


私にとって、一生忘れられない一日となった―…