『きっと傷つけた。私は大好きな人を傷つけたんだ…。』



怒りや悲しみや後悔を感じながら無我夢中で歩いていると、



「さく?」

「おかえりー。」



ロビーで待っていた瑞穂と梢に声をかけられて我に返った。


「ごめ…」

「…何かあったの…?」


口を開きかけた私の表情を見て、何かを悟ったのだろう。


心配そうに揺れる瞳で、瑞穂と梢が私を見ている。


私は何度この二人に心配をかけただろうか。


何度励まされただろうか。


そしてまた…。



「私…先生を…」


そう言って、私は両手で顔を覆って俯いた。


この時私の心を占めていたのは、嘘をつかれた事ではなく、


“きっと相葉先生を傷つけた”


という、罪悪感でいっぱいだった。



「…先生を傷つけた…。」

そう言って泣き出した私を、



「さく…。」

二人が心配そうに、両端から私の肩を抱いた。


何も理由も無くそんな事が起こるなんて、二人だって思っていなかっただろう。



「とにかく出よう。」


二人に支えられるように下駄箱に向かい、学校を後にした。



こんなはずじゃなかったんだ。


先生を傷つけるつもりはなかったんだ。


卒業まで残り僅かになっているのに、


大崎先生との事を見て見ぬ振りが出来なかった幼い自分。


冷静を保てなかった自分。


その全てが後悔と不安になり、


『相葉先生に嫌われたんじゃないか』


という想いで、一杯だった。