海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

私の話を聞き終わった瑞穂は、


「そっかぁ…。」

そう言って、少しだけ無言になると、


「…それ、本当に大崎先生の車なの?」

と、聞いてきた。


私は間髪入れずに、


「うん、それは間違いないよ。」


そう、伝えた。


実際のところ、相葉先生と大崎先生が付き合っているという話を、学校の中では一度も聞いた事が無く、


ただ相葉先生のアパート前に、大崎先生の車が停まっているだけだった。


それだけで十分決定付けていると思った私は、二人の関係を確信していたけれど、本当の事は誰も知らなかった。



「でもさぁ…。」

「うん?」


しばしの沈黙が続き、私は瑞穂の言葉の続きを待った。



「せっかく作ったんだし、明日渡したら?もう最後なんだし…。」

「ん…。」


それは、私が迷っていた事に対する答えだった。


どうしたらいいのか、分からなくなっていたから…。


瑞穂は私の心の中の迷いや後悔を、感じ取ってくれていたのかもしれない。



「卒業したら、もうこんな機会はないかもしれないんだよ?もしかしたら、今だからこそ出来る事なのかもしれないよ?」


「ん…。」


「チョコレートケーキだから、もう一日経っても大丈夫でしょ!ちょっと時間を置いた方が味がなじむって言うし!」


瑞穂はそう言って、少しだけ笑った。


「頑張んな!」



私は…


瑞穂に、くじけそうな自分の背中を押して欲しかっただけなのかもしれない。


そして、まるで私の期待に応えるかのように励ましてくれた瑞穂には、感謝の気持ちしかなかった。



「ありがとう瑞穂。頑張るよ!」


私がそう言って笑うと、


「頑張れ!」


と、瑞穂も笑ってくれた。




2月14日。


卒業式は3月1日。


卒業までの残りの期間は約半月。


『相葉先生に、今の自分の精一杯の想いをぶつけよう。』


そう、心の中で思っていた。