海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜

私はグッと唇を噛み締めてくるりと振り返り、相葉先生のアパートに背を向けると、


来た時以上に足早に、今まで歩いていた道を戻り始めた。


ずんずん歩いて電話ボックスを通り過ぎ、名残惜しさなんて感じる余裕もなく、あっという間に公園から離れた。



とにかく、全てから逃げたかった。



本当は心のどこかで、もしかしたらこうなるんじゃないかと予測していた。


相葉先生と大崎先生は恋人同士だし、バレンタインデーに会っていても全然不思議じゃない。


むしろ、普通だろう。


ただ私が、勝手に微かな期待をしていただけ。


『もしかしたら、相葉先生は一人で待っていてくれるんじゃないか。』


と、雨の日の事を思い出しながら、期待していただけだった。




だって、約束したから。


強引だったけれど、約束したんだもの。


“夜7時に先生のお家に行きます!”


そう、約束したんだ。


だけど、その予定がちょっと狂ってしまっただけ。


ただ、それだけなんだ…。




噛み締めていた唇が、微かに震えている。



『家に行くなんて言うんじゃなかった。』


そう思った途端、大粒の涙が零れ落ちた。


寒い空気の中で、いくつもの熱い涙が頬を伝うのを感じた。



“後悔しないように”


この想いだけで突き進んできた事は、正しかったのだろうか。


私には分からなくなっていた。




行き交う車のライトが少しずつ見えてきた。


『夜で良かった。』


私は泣きながら、そう思った。


夜だったら、すれ違わない限り泣いている事は誰にも気付かれないだろう。


そして心の中で願った。



『お願いです、今の私を照らさないで下さい。


残り僅かな日数の中で、また傷ついている馬鹿な私を暗闇で隠して下さい。


どうか、神様―…』



私はひたすら夜道を歩き続けた。


涙を零しながら、


ただひたすら、雪降る夜道を歩き続けた―…