電話ボックスから相葉先生の家までは、歩いて1分程の数メートルの距離だった。


その数メートルを先生と間近で並んで歩いている間、私は物凄く緊張していた。


もっと正確に言うと、相葉先生が電話ボックスの前に立っていた時から、物凄くドキドキしていたんだ。


だけど先生の傘に入った瞬間から、その鼓動はもっと激しくなって…。


真横にいる相葉先生に

『聞こえてるのかも。』

そう思って、チラッと先生の顔を見上げてみた。


だけど相葉先生はまっすぐ前を見て歩いている。


『どんな風に思ってるんだろう…。』


そう思いながら、私はその横顔を眺めた。


私達は無言だった。

先生は分からないけれど私はとても緊張していたから、何か話そうと思っても言葉が出てこなかったんだ。


だって…


男の人が一人暮らししている部屋に入るのは初めてだったし、しかも相手は大好きな相葉先生で。


特に何が起こるっていう訳じゃないだろうけど、心臓が爆発してしまいそうなほどドキドキしていた。


「先生、ごめんね…。」


相葉先生のアパートの前に着いた時、私はもう一度謝った。

アパートに近付くにつれて本当に申し訳なく思ってしまったからだ。


“ごめんなさい”

その気持ちが私の表情に出ていたのだろう。


困ったような表情を浮かべていた相葉先生は優しく微笑み、

「いいから、入んな。」

そう言って玄関ドアを開くと、部屋に招き入れてくれた。


「お邪魔します…。」


初めて入る大好きな人のお部屋。

玄関で靴を脱ぐと、そのままぐっしょりと濡れた靴下も脱いで、裸足で室内に入った。


相葉先生の部屋は8畳と6畳の1DKで物も少なく、こざっぱりとした部屋だった。


全体的にブルー調で“男の人の部屋”っていう感じ。


何となく先生の香りがする気がして、それが更に私をドキドキさせていた。