「えっと、ちょっと遠回りして帰ろうかなーって思ったら雨が降っちゃって。それでここで雨宿りしてて。で、『先生のお家が近いな』って思ったから何となく電話したんです…。」



『こんな理由じゃ無理があるよね…。』

そう思っていたせいか、話が終わりの方になるにつれて、どんどん声が小さくなっていった。


「ハァー…」

相葉先生はもう一度溜め息をつくと、


「…だからそんなにビショビショなのか。」


そう言って、私の姿を見た。

髪も制服も濡れていたから随分ひどい格好だっただろう。


「へへへ…。」

「“へへへ”じゃないだろ!こんな所で一人でフラフラしてビショ濡れで…風邪引くだろ!」


笑ってごまかそうとする私に向かって放たれた相葉先生の言葉は、怒っているようだけれど、心配しているからこそ出てきた言葉だっていう事が分かるから…


だから、とっても幸せだと思った。


その証拠に、先生は怒った顔なんかしていない。


むしろ困っているような、そんな感じがした。



「ごめんなさい…。」


私がペコッと頭を下げると、相葉先生はちょっと考え込んでから


「とりあえず…来い。」


そう言って、さしている傘を少しだけ私の方に差し出した。


「えっ?」

「そのままそこにいても危ないし風邪も引くだろうから、少しだけ俺の家に寄っていけ。温まったら家まで送るから。」


相葉先生は困った顔を崩す事無く、更に傘を近づけた。