「じゃあ、今度こそ出発しようかな?」


一件落着して、またまたノリノリの木村くんに、石川くんは頷く。


「ああ、こんなところ長居は無用だ」


そう言って立ち上がりかけた石川に木村が首を傾げた。



「えっ?ゆっくりしてていいよ?」



「は?」

「じゃあ、行ってくる」


その言葉に先ほどから蛍の中でわだかまっていた疑問が、解消される。


普段から気にしすぎの木村くんが、疲れた石川くんを連れて強行出発しようとするのかと疑問に思っていたが、なるほど。



最初から一緒に行くつもりもなかったというわけか。



「人間の王様と会って、ちゃんと平和協定結んでくるからー」


そう言って、おもむろに魔王の間の壁にかかってあった自転車を下ろす。



蛍は顔を伏せた。

一体、木村くんの何を見てきて、木村くんが石川くんを無理させようとしてると、勘違いしたのだろう。


蛍はそんなこと一瞬でも思った自分を呪った。


そうだ。
木村くんが、石川くんを自分の誤解を解くために行かせることなんてこと、するわけがなかった。


蛍の知ってる木村くんは何でもない顔をして、必要以上のことに気を回して、何も言ってないのに必要なことをやってのける人。


それが木村くんで、蛍たちはそんな木村くんが好きなんだけど。


だけど、木村くんのそういった行動に、常々寂しさを感じずにはいられない。



木村くんのために何かしたいのに、何もできない。



そして、もっと頼れとか言えない自分たちの役立たずさ。


だから、さっきも折角の準備がパーになっちゃたし、部屋イエローになっちゃったし、木村くんクシュンクシュンしちゃうし。



「イタっ」


………冬城くんは相変わらず、王座で本読んでるしねっ!