石川が返事を待っているのが分かったのか、木村はおずおずと続きを口にする。

 
「えっと~、今更なんだけど、勇者くんはさ、なんでここに来たのかな? 俺なんかしたっけ?」
 
「は? 理由なんて、ここに魔王がいたからしかないだろう」
 

沈黙が流れる。


木村の決死の質問は、石川によって一言で片付けられてしまった。

これには二人を見守っていた使用人勢も何も言えなかった。
 


少しして、木村が斜め下を見ながらつぶやく。

「そ、そっか。そうだよね。俺なんて、存在するだけでみんなの迷惑に……」
 
「だああああああ!そういう事じゃねえんだよ!」
 

耳ざとくその声を聞きつけた石川が遮った。
 

「いいか!」

石川が言い聞かせるように語り始める。


「お前がいいやつ悪いヤツ有能無能とかじゃないんだよ!魔王という存在自体が人間の脅威なんだ!!」
 

「つまり、やっぱり俺は存在しない方がみんな平和に……、」
 

「だーかーら!!違うと言っているだろう!俺が言ったのは“魔王”であって“魔王木村”ではない」
 
「え?」