魔王木村と勇者石川



「弦野くんっ」


蛍が思わずそう言うと、弦野くんは九十度直角のお辞儀を返す。

彼はこの城の料理長だ。


「あの厨房から無くなったものがあるんですが!イチ___」

「ダメだーっ。弦野」


せっかく何か弦野くんが言いそうだったのに、突然冬城くんが口を挟んできた。

「えっ?」


弦野くんは料理長でありながら、冬城くんが盗んだことを知らないのだろうか。

まあ、食材管理は下の仕事なのかもしれない。


「弦野、それを言っちゃダメだ。白山も」

「は?」


そのまま言い合いを始めてしまった冬城・白山コンビに、弦野くんを放っておけなかった木村くんが代わりに相手をする。


「厨房から何がなくなったって?イチ何?」

「えっと、あっと。イチ……、いっ一番好きな百合がなくなったんです。あーーーっ、僕はなんてことをっ。失礼しましたっ」


コンビの様子に何かを悟った弦野くんは、隠そうと頑張った。

だが慌てすぎて百合発言をし、それにさらに焦ってそのまま場を後にしようとした。



「百合ですか~。いいですよねー」

本物の百合がしゃべるまでは。