「で、君は?」

「だから、誰でもないよ?」

やっぱり、彼女はふざけた答えしか寄越さなかった。

「名前を聞いてるの。名前ないの?」

「名前、ねぇ。あったような~なかったような~。ハヤト君が決めてよ!」

全く、なんの脈絡もなく、大事なものを決めさせる奴だ。

「ほらほら、そのうち思い出すかも知んないし!決めてよ!」
「覚えてすらねぇのかよ………。じゃ、お前は“ナツ”。これで満足か?」

すると、ナツはあははっと笑いだす。


僕には、理解出来なかった。
名前を決めてあげたのに、笑われた。

なんだか、馬鹿にされた気分だが、馬鹿にした名前で呼ばれるのだ。ざまあみやがれ。

「なんで笑うんだよ………」

「あはは、なんとなくー!あ、別にセンスないーとかじゃないよ?」

ナツはそこまで言うと、窓の外を眺め、にこりでもふにゃりでもなく、ただ、優しく笑った。



「前も、そんな名前だった気がするの。」