「川野が言ってたっていう『事情』は、そういうことだから」


じゃあ出るか、と伝票を持って荒井さんは席を立った。


とりあえず私も、あわてて立ち上がる。


事情なんて、聞かなきゃよかったかも。


少し前の、『やりなおそう』っていう言葉だけでよかったのに。


ものすごく複雑な気持ちのまま、荒井さんに従ってお店を出て、タクシーに乗った。


考えてみれば、荒井さんのマンションは広すぎた。


身につけている物も、高価な物ばかりだった。


大企業の御曹司って知ってたら、好きにならなかった。


「花音、俺んちでいいよな?」


「えっ・・・は、はい」


「だから、いい加減に敬語やめろって」


「でも、それはちょっと」


「まあ、いっか」


このまま、流されてしまっていいんだろうか。


けれど、大好きな声に導かれるように、体を重ねてしまった。