『もしもし』


「あっ伸二くん、ごめんね、寝過ぎちゃって」


『良かった、花音さん起きてくれて』


「いまどのあたり?」


『あと少しで家に着くから、あとで花音さんちに行っていい?』


「えっ?」


『なんかまずかった?』


「ううん、そうじゃなくて、何もないから」


『いいよ、外で食べよう。


僕は、花音さんがいればいいから』


そんな優しくて甘いセリフ、言わないでほしい。


別れる決心が、揺らいじゃうじゃん。


とりあえず熱いシャワーを浴びて目を覚まし、簡単に掃除をして伸二くんが来るのを待った。


ピンポーン、と玄関チャイムが鳴り、ドアスコープをのぞくと、伸二くんが立っていた。


「おかえり」


ドアを開けた私を、伸二くんはいきなり抱きしめた。


「ただいま。


花音さん、少しでも早く抱きしめたかった」