「あの人、村山さんって言うんですか?」


「そうだよ、あんた知らないのか?」


「あ、はい……」


老婆にギロリと睨まれてひるんでしまう。


なんだか悪い事でもしてしまったような気分だ。


「今年に入ってからあの丘の上に引っ越して来たんだ。何をしているのか知らないけれど、よく若い女が出入りしてるらしい。ろくでもない男だよ」


丘の上……。


俺は視線を丘へと移動させた。


ここからでも徒歩で行ける場所に小高い丘があり、そこには昔から大きなお屋敷が建っていた。


大昔は誰かが住んでいたらしいけれど、ずっと空家になっていたハズだ。


「村山さんっていう名前なんですか?」


そう聞いてみたが返事がなく、視線を老婆へと戻すと、すでにその姿は見えなくなっていたのだった。