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それから10分ほど歩いたところで男が立ち止まり、タクシーを拾った。


しまった。


車に乗られたらこれ以上追いかける事ができない。


あの男を追いかけたってどうにもならないという思いと、少しでも《人間発注書》について知りたいという気持ちが混ざり合っている。


だけど、無情にもタクシーは走り去ってしまった。


俺はその場に立ち止まり、ボンヤリとその姿を見送る。


「村山さんと知り合いなのかい?」


不意にそう声をかけられて俺は飛び上がって驚いた。


振り向くと、いつの間にか見知らぬ老婆がすぐ後ろに立っていた。


「む、村山さん……?」


「さっきの、図体ばかりデカイ男の事だよ」


老婆はそう言いタクシーが去って行った後を睨み付けた。


なにか怨みでもあるような様子だ。