その顔に恐怖心など少しも浮かんでいなかった。


俺が本当は人をさせるような人間じゃないと、すでにわかっているようだ。


けれど俺はその男へ刃を向けた。


さっきよりも震えだした自分の手はどうしても止まらない。


汗でナイフを落としてしまいそうだ。


「当人の意思に関係なく売買が成立するなんておかしいだろ!」


俺は叫び声を上げていた。


後ろではミホコが涙をすすりあげている音が聞こえて来る。


「買手が決まった時点でその子は人間じゃない。商品だ」


男の冷たい声にひるんだ。


ミホコは間違いなく人間なのに、施設にいた彼らだって間違いなく人間なのに。


それなのに血が通っていないというのか?