私────『星崎 杏麗(ほしざき あんり)』はとある研究施設の一角で目覚めた。

「ん?────ここは?」
私は周りを見渡した。周りにはレポートが散乱されてあり、デスクの上の書類には埃がかぶっていた。
「どうして私…こんな所に?」
私は脳裏にある記憶を探す。
「来た理由って確か…」

~数ヶ月前~
私は亡くなってしまった父の部屋でとある1冊のノートを見ていた。父はなにかの研究をしていた。幼い時に尋ねてみたが、「秘密」と言われてしまった。
1冊のノートには『繭の籠』記入者 星崎 進二(しんじ)と書かれていた。
「繭の籠?」
私はノートを開いた。初めのページには何も書かれていなかったが、次のページがうっすらと透けており次のページを開いた。
「6月5日。私はとうとう研究チームに入る事が出来た。だが、私は詳しく参加は出来ないようだ。その代わり、このノートに一日一日の事柄を書いていくのが私の役目のようだ。『繭』の様子はこのノートのお陰で知る事ができる。嬉しい限りだ。────初めのページなんてただの日記じゃん…」
私はため息をついた。それと同時に私の脳裏である過去を思い出した。それは、『繭』の存在だった。私には本当は姉が出来るはずだった。名前を『繭』にしようとした。と、聞いた。だが私には兄の『碧斗(あおと)』しかいない。理由を聞いても「大人になったら」としか返って来なかった。
「お姉ちゃんと関係があるのかな?でも…。お父さんもしかして…?」
私は次のページに目を向けた。
「6月6日。私は研究所内を見せて頂いた。もちろん『繭』も。私はとても嬉しかった。心が踊った。だが、『繭』は眠っていた。杏麗の寝顔を思い出す様だった。…ん…何だ?この小さい文字は…」
私は父のデスクにあったルーペを取った。
「…私のものだった?」
私は顎に手を当て考える。
「…ある程度目処は着くけど……18時…?もうこんな時間!?やばい…お母さん返ってくる」
私はノートを持って父の部屋から出た。何故あんなに焦ったかというと、父の部屋は碧斗と私は入っては行けない場所なのだ。────理由は分からないけど。
そんな中、母が仕事中私は振替休日のお陰で父の部屋に入る事が出来た。

晩ご飯や風呂を済ませ寝る支度をして自室でノートを開いたが、大体いい情報がなく、適当にページを捲っていると、気になるページがあった。
「7月7日。『繭』は私のモノだ。私の。この計画を持ち出したのも私。私が全て。なのにどうして私は『実験台』に近づくことが出来ないのだ。『繭』はまだ完成していないのだ。『実験台』のままなのだ。私は『完全』を求める。永久に…か。確かお父さんが死んだ日って…────そうだ。このノートの次の日…!」
私は隣のページを見た。
「ない!?…ん?」
次のページを開くと何かが書いてあった。
「…お父さんの字じゃない?」
ペラペラと、前のページと見比べる。
「やっぱり…違う。────『実験体9』は星崎 海斗(かいと)によって持ち出された。彼は、いつも執着を持ち、我が子のように『繭』と名ずけていた。持ち出した罪人海斗は地下室で発見した。彼は我々が始末する事にした。だが、それを聞くと同時に慌てて外へ逃げ出してしまった。だが、好都合な事に崖から転落し死亡した。残りは実験体だが、その実験体はその奥の部屋にいた。彼女は目を覚まし、我々を押し倒し部屋から脱走した。実験体についても同様に発見後、始末する。────記入者 有澤 裕史(ありさわ ゆうじ)。…有澤?聞いたことがある様な…」

「有澤って男子クラスにいないか?」
「いるけど…?」
「そうか」
「何で知ってるの?」
「お父さんが働いている所の人なんだ」
「そうなんだ…」

「龍雅(りゅうが)!?…明日行ったら聞いてみようかな?」

────次の日。
「杏麗おっはよ〜」
「凛々華!おはよ〜」
友人の霧崎 凛々華と廊下で会い、教室まで向かった。
「皆おはよ〜」
「杏麗、今日は遅いね〜?」
「やたら信号にぶつかってさ〜」
「あーあるある!」
いつも早く来て私を待ってくれる、高嶋 寧々子。二人は大事な女友達。男子と言ったら…。
「あり〜手伝ってくんねーか?」
幼馴染の須藤 龍人(たつと)。
「いいけど?…本来一人でやる仕事だよ?」
「悪ぃ〜」
それに、
「あり気をつけろ!!!」
「はぁ!?」
目の前には紙飛行機。避けようがない。私は、おでこに紙飛行機が当たった。
「杏麗、ごめん!わざとじゃないんだ!!」
「あのねぇ…。今週…毎日毎日、紙飛行機当てるって…絶対、わざと!今日という今日は紙飛行機没収!」
「嘘ー!」
がっくしきてるのが、有澤 龍雅。
「高校生にまでなって、紙飛行機を朝からやる奴が悪い!」
「別にいいじゃんかよー」
悪戯する割には良い奴なんだけど。
あともう一人、柊木 はじめ。はじめは、朝練で教室に来るのが遅いからあんまり話せないんだけど。6人が揃えば話せるから特にもんだいないんだけどね。

────放課後
 校門まで私と龍雅、ふたりで歩いていた。私は意を決して聞くことにした。
「龍雅!」
「ん?」
「今日部活は?」
「ないけど?」
「き…聞きたい事あるんだけど…」
「…もしかしてだが…親父か?」
「ま…まあ」
「…行くぞ」
「え?あ?何処に?」
「研究所。俺の親父はありの…いいや実験体に殺された。警察に言えば大問題だと言って研究所だけを封鎖したらしい。実験体────『繭』は見つかってない。俺も親父からよく聞かされた。こんな話、学校でするもんじゃねぇ。早く行くぞ」
「待て」
校門の外から一人の男が覗いていた。
「…お兄ちゃん!」
私は見た瞬間に分かった。
「先輩…」
「ん」
お兄ちゃんは私たちと同じ制服を着ている。ネクタイは3年生カラーの緑色だ。
「龍雅は知ってたっけか?一応今言っとくわ。杏麗の兄だ。ふたりで行かせるわけにはいけねぇな。このノートも持ってきたし…」
「お兄ちゃん私の部屋に入ったの!?」
「朝な。親父の部屋に行けばノートが無ぇーし、昨日の夜なんやら見てたからな」
「…バレてた」
「っつー事で、俺も行く。ちゃんとお母さんにメール送っといたから」
兄のスマホには「帰り遅くなる。杏麗の連れだから安心して。」と、表示されていた。
「…はぁ。龍雅…大丈夫?」
「俺は別に良いけど」
「そう?」
「早く行かねぇと…」
「なんで?」
「『繭』はまだ見つかってないんだろ?」
「そうですね」
龍雅はいつの間にか敬語になっていた。私は龍雅が敬語を使うのを初めて見た気がした。
「もしも…夜行性で、このノートの通りに…」
「やっ!やめてよ!」
「そんな事にゃあなりたくねぇだろ?」
「うん」
「早く行くぞ」
「ねぇ!研究所って何処にあるの?」
「裏」
「え?」
「学校の裏にあるんだよ。山奥に近いけど…あり知らなかったのか?」
「うん。お父さん全然話してくれなかったから」
「そうなのか…」
「ほら、突っ立ってないで行くぞ」
「うん」


「それで…ここに。そうしたら龍雅とお兄ちゃんは!?」
私は再度周りを見る。
「いない…。じゃあこの先に?」
私はドアノブに手を掛けた。
「開かない!?じゃあどうやって部屋に入ったの!?」
私は行くまでの記憶はあるけれど、研究所に来てからの記憶が無い。
「クリップかなんか無いかなぁ。そうしたら開けれるんだけど…」
私は室内を歩き回る。デスクの前に来てデスクの引き出しをあさる。
「…あった!」
私は室内を走ってドアの前に座り鍵穴にクリップを入れる。
「…こういうのはお手の物なんだよねぇ」
私の叔父は何でも知っていた。私はなんでも知る叔父からノートを手渡され亡くなった。そのノートには泥棒がしそうな事まで書かれていた。最後のページには「上手に使いなさい。杏麗なら出来る!」と書いてあった。そのノートは今日も入ってる。
「これで…どうだ!」
私は勢い良くドアを開けた。
「龍雅!お兄ちゃん!?」
「あり!これを取れ!」
「龍雅?」
私は声のする方に向かった。すると水道管に手が結束バンドで結ばさっていた。
「…!ハサミある」
私はリュックの中から筆箱を取り出し、ハサミを取り出した。
「…おお!サンキュー!」
「動かないでよ」
私は結束バンドを切った。龍雅はそれを投げ捨て立った。
「誰だろう…こんな事したの…」
「さあな…とりあえず、碧斗先輩探そうぜ?そうしてるうちに何か分かるかもしんねーし」
「…そうだね」
私は周りを見渡す。
「ここって…」
私は出入口にはしり、ドアを押し引きする。
「…出れない!」
「…おいおい。まじかよ鍵は!?」
「内側からじゃダメな仕組みみたい…入ってきた時って?」
「開いてた」
私は「記憶がないのは私だけ?」と疑問に思った。だけどそれより、お兄ちゃんを探す方をメインとしている。私の記憶は置いておく事にした。それでも、一応伝えておくことにした。
「…私ね。ここに入った記憶が無いの」
「…!」
「何があったか…分かる?」
「ああ。俺達は、ここの敷地に着いたんだ─────」

敷地の前には誰も入らないように門が閉まっていた。でも、お兄ちゃんが手をかけると
「開いてる…」
すんなりと門は開いた。そして私達は研究所の敷地内に入ったという。

「そこで話が終わりじゃないんだ…」
「え?」
「敷地内に入った時俺達は、『実験台』がここにいない可能性を考えたんだ」
「どうして?」
「…さっき言ったが、門は開いてたんだ。出てる可能性もあるだろ?」
「…逆にさ、もし…もしだよ?門を開けたのがその…『繭』だとして…抜け出さないで、誰かをここに入れるとか…って考えは?」
「…そうなると理由がない。…でも…無くはないな」
「…だよね。でも、ここから出てたら…どこに?」
「その実験台を…学校に連れていった…とか?」
「ノートには…何も。ただ…お父さんが、連れ去ったって…」
「学生として…送っている?」
「私のお父さんなら…そうするかも…」
「!?」
龍雅がふと、扉の方を振り返った。
「どうしたの?」
「あ…いや…。なんか視線を感じた…」
「…え?お兄ちゃん?」
「…先輩なら何か声を掛けるはずだ…。…繭?」
「…」
龍雅が『繭』という言葉を発した直後この研究所内が重くなった。
「はやく…出よう…先輩を見つけて」
「…でも」
「研究所の鍵…合鍵かなんかならここにあるはずだ…それを持ってでる」
「それでいいだろ?…今は」
「…うん」
そして私達は反対の扉の前に向かった。