「さゆりさん、私にも肉じゃが定食をひとつ頂けますか?」
「申し訳ございません。あいにく売り切れてしまって」
竹内さんの表情は一瞬ゆがんだけれど、すぐに余裕ありげな笑みを浮かべて「……そうですか。では、いつものを」と注文し直した。
「……いつもって、何でしたでしょうか?」
さゆりさんのまさかの返しに、再び竹内さんの顔がひきつった。
「えっと……アメリカンコーヒーをください」
「かしこまりました」
さっきまでの、まるで家族で食卓を囲んでいるようなあったかい雰囲気はどこへいったのだろう。
今はとてつもなく気まずい。小林さんも空気を読んだのか、ただもくもくと箸を進めている。
竹内さんはジジィトリオに次ぐ常連客で、いつもアメリカンコーヒーを注文している。
アルバイトの俺なんかでも彼の顔と注文を覚えているのに、さゆりさんが覚えていないはずがない。