「では、私はそろそろ帰ることにします」
「ちょっと待ってください!」
俺たちに背中を向け、出入り口に進もうとする椿さんを引き留めた。
「宇垣くん、私に何か用事でも?」
「椿さん、一つ肝心なことを忘れてしますよ」
「肝心なこと、とは?」
「喫茶リリィに来たからには、コーヒーを飲んでからお帰りいただきます!……さゆりさん、準備お願いします」
「え? えっと……そうですね、かしこまりました!」
さゆりさんに笑顔が戻った。嬉しそうにカウンターに入り、サイフォンの準備をする。
「さゆりさん、椿さんに最高のコーヒーを淹れて、ぎゃふんと言わせちゃってください。かしわぎのお二人も、よろしければ」
「そうだね、じゃあお言葉に甘えていただくとするよ」
かしわぎご夫婦はテーブル席に腰かけた。椿さんも、二人に続いて座る。


