「そうだな、恐らく、熟練度の差だろう。どのくらいの味付けで、どの程度挙げればいいのかは、食材が教えてくれるようになる」
「いつか私も、食材に教えていただくことができるのでしょうか」
「諦めなければ、かならずその時はくる」
食材が教えてくれるって……もう神業の域だと思う。毎日料理を作っていると、食材の特質のようなものがわかるようになるのか?
「素晴らしいお言葉だ。メモしておこう」
椿さんはスーツの内ポケットから手帳を出し、メモを取り始めた。
「メモって、椿さんは料理しないんですよね? いつ使うんですか?」
ツッコミどころ満載の椿さんにとうとう質問してしまった。
椿さんはメモを取り終えたのか、手帳をぱたりと閉じる。
「宇垣君の言う通り、使わないかもしれないな。でも壁にぶつかったときに、心に響いた言葉のメモを見ると、不思議と答えが見つかるものだよ。君も騙されたと思ってやってみるといい」


