「おはようございます」
喫茶リリィの扉を開けると、さゆりさんは床の掃き掃除をしていた。いつもと変わらない様子にほっとする。
「おはようございます、冬馬くん。今日は涼しいですね」
「そうですねえ、大分秋っぽいですよね」
他愛もない話をしながら休憩室に行き、エプロンを身につける。
キッチンにあるふきんをもってテーブルを拭こうとすると、さゆりさんに、
「もう掃除はすべて終わらせちゃいました」と言われた。
こんなことは今日が初めてだった。だいたいいつもは二人で掃除を分担していて、途中からさゆりさんは仕込みに入るという流れなのに。
いつもと違うというだけで、不安が心を包み込んでいく。
「め、珍しいっすね、どうしたんですか?」
「今日は早く目が覚めちゃったんです。昨日のことで、頭が冴えちゃったというか。……冬馬くん、昨日はどうもありがとうございました」
突然お礼を言われ、深々と頭を下げられた。こんなのもはじめてだ。
どうしよう、さっきから嫌な予感しかしない。お願いだから、いつもと違うことやめてほしいよ。


