喫茶リリィで癒しの時間を。


 さゆりさんのお父さんは小さくため息をつくと、さらに話を続けた。


「実は……ずっと後悔していたんです。あのとき、仕事ではなく彼女を選んでいれば、今ごろは幸せな家庭を築くことができたのかって。そして今日、またひとつ後悔が増えました。もっと早くここに来ていれば、もう一度百合子に会うことができたというのに。娘の成長を見守ることができたのに」


「そういえば、お客さんは、引っ越してから一度も店に来ていないんですよね? どうして今日、来ようと思ったんですか?」


「実は、会社が早期退職を募集していましてね。それがきっかけで、自分の人生を振り返っていたときに……改めて思ったのです。一番楽しかった時期は、この場所で、百合子と一緒にいた頃だったとね。頭のなかで思い出をたどるうちに、百合子の顔が見たくなって、ここまで来てしまったというわけです」



 すれ違い、という言葉が頭に思い浮かんだ。
 さゆりさんのお母さんは別れてからもずっと、お父さんのことを想い続けていた。

 いつかまた会いたい、その一心でこの喫茶店を守り続けたのだ。