さゆりさんの話を聞いたお客さんは、まるで氷のように固まってしまった。
 放心状態とはこういう状態のことを言うのだろうか。

 ずっと一点を見つめて、口は半開きの状態になっている。


「私と百合子の……娘だって? まさか、そんな……」


 お客さんの身体がよろけそうになった。驚いて、全身に力が入らなくなってしまったのだろうか。


「あぶない!」 


 俺は慌ててお客さんの身体を支えた。


「ああ、ありがとう、いろいろと迷惑をかけてすみません」


「いえ、たいしたことではないです。それより、少しお店で休んでいきませんか? このままの状態で出歩くと危ないっすよ。さゆりさんもそう思いますよね?」


「え、ええ。そうね。それがいいと思います。……その前に、拾わなくちゃ」


 さゆりさんはしゃがみこむと、床に転がっていた野菜を拾いはじめた。

 俺はお客さんを支えているから、彼女を手伝うことはできずに、全部拾い終わるのを見守っていた。


「お待たせしてすみません。それでは、いきましょうか」


「はい」


 俺とさゆりさんはお客さん……さゆりさんのお父さんを連れて、喫茶店へと戻った。