太ももと足の裏と肺と喉と頭と心臓に痛みが巡る。まだだ。まだ立ち止まるな。数メートル先にある草の茂みに身を潜めるまでは走り続ける。
あと七メートル、五メートル、三メートル・・・。

「見失いました!」

数メートル後ろからのその言葉に勝ち誇った感情が湧いた。やった。

「はぁっはぁ、はっ・・・っ」

息を切らしながら目的の草の茂みに身を隠し身体を落ち着かせる。毎朝ラジオ体操だけでは体力がつくはずもない、か。明日からは少し軽い運動をしてみようかな。などと考えながら耳を澄ませる。

「もう、いないかな」

私を探し回る足音も声も聞こえなくなった。恐らく看護師達は私の今居る場所とは逆方向に探しに行ったのだろう。
折角成功した病院からの脱走、こっちだってそう簡単に捕まるわけには行かないのだ。そう思い地べたから尻をあげるとパジャマ姿の私は初めて見る道を裸足のまま歩いた。