唇に、ちよこれいと

フロアから出ようとしてドアを押して。


「そのドア、24時から6時まで開かないって知ってた?」


すぐ耳元に落とされた声に、悲鳴さえも殺されていた。声を失っている私の耳元に、彼の低い笑い声が響く。それは、今まで聞いたどの声よりも生き生きとしていた。

何を考えているのだろう、どうして、こんな犯罪まがいのことを。

そう、考えている私の耳に彼の唇が触れた。


「……朝倉、お前はほんと、できた部下だよ」


その声はやはり至極楽しげだった。私の退路を封じてしまっている彼は、今この状況が楽しくて仕方がないらしかった。


「放してくださ、い」


呟くと、わざとらしく体を寄せてくる。その態度に眩暈がした。私の腰に回された腕は、いつも目の前で見ていた以上に逞しく、抜け出すのは不可能だ。
せめてもの抵抗に体を捩ったところで、逆に彼の方を向かされただけだった。

視界いっぱいに蓮見さんが映り込む。その蓮見さんの表情はやはり上機嫌そうだった。


「なぁ、俺、甘いの無理なんだよ」


私の訴えを無視した彼は、尚も楽しげに声を吐いていて、その声に、つい数十分前に見た光景を思い出していた。